歌のうまさは遺伝?脳で何が起きている?——「歌のうまさ 遺伝 脳」を科学で解説

第1章|総論:〈遺伝×脳×環境〉の三層で「歌のうまさ」は決まる

1) 最初に結論——二者択一ではなく、三層の掛け算

「歌のうまさ 遺伝 脳」という問いに対する現在の科学的な答えは、遺伝(生得的素質)脳(聴覚系/運動系/報酬系)環境(とくに幼少期の共有環境と学習)の三層が重なって形づくられる、というものです。若年〜成人の大規模双子研究では、客観テストで測った歌唱力の個人差について遺伝がおよそ40.7%共有環境がおよそ37.1%を占めると推定され、両者が拮抗して大きいことが示されています。つまり「生まれつきだけ」でも「努力だけ」でもありません。:contentReference[oaicite:0]{index=0}

2) 脳のネットワーク視点——内耳から聴覚野、運動系、報酬系へ

歌うための情報処理は、内耳→脳幹・中脳(下丘)→聴覚皮質という音高マッピングの経路に加えて、運動前野/小脳などのタイミング制御、そしてドーパミン報酬系(音楽の快・動機づけ)まで広く動員されます。家系・ゲノム研究では、内耳や下丘の発生を制御するGATA2、情動とも関わるPCDH7、音楽刺激で発現が上がるSNCAなど、聴覚〜報酬ネットワークをまたぐ候補群が浮かび上がっています。これらは「音高の鋭さ」「音楽への没入・意欲」といった側面を通じて歌唱力と結びつく可能性を示します。:contentReference[oaicite:1]{index=1}

3) ピッチとリズムで「遺伝×脳」の効き方は違う

双子に基づく行動遺伝学は、能力の項目ごとに寄与が異なることを明確に示しています。若年成人384名の双子で、純粋な音高差の検出には高い遺伝寄与(約58%)が見られる一方、調性違反の検出共有環境の影響が大リズムずれの検出ほぼ環境要因で説明されました。言い換えると、ピッチの鋭さは先天的・感覚的要素の影響が大きく、リズムや音楽文法は学習・文化の影響が大きいという対照が観察されます。:contentReference[oaicite:2]{index=2}

4) リズムの遺伝学:ビート同期は69座の多遺伝子形質、脳発達関連に富む

60万人規模のGWASは、ビートに同期して動ける能力に関連する69箇所の遺伝子座を同定し、SNPベース遺伝率は13〜16%と推定しました。関連変異は中枢神経系の制御領域や胎児〜成人の脳で発現する遺伝子に富み、拍同期の個人差が脳発達・神経機能に根ざすことを示します。歌におけるタイミング/ブレス/運動協調の差が、分子的にも「脳の性質」と結びつくことが読み取れます。:contentReference[oaicite:3]{index=3}

5) 「極端例」が照らす脳と遺伝:絶対音感と先天性音楽不能症

絶対音感(AP)は、幼少期訓練という環境条件に加え、家族内での高い集積など遺伝素因が関与します。fMRI/EEGでは、AP保持者は左側頭平面など聴覚野の活動様式が非保持者と異なる所見が報告され、音高処理に言語様の戦略が関与する可能性も指摘されています。一方、先天性音楽不能症(いわゆる先天的音痴)は家族内集積が顕著で、22q11.2欠失と音高認知障害の関連を示す報告もあります。いずれも「音高処理ネットワーク」の脳内表現と遺伝が重なっていることを裏づけます。:contentReference[oaicite:4]{index=4}

6) 「歌に特異的に反応するニューロン集団」——歌声は脳内で特別扱いされる

近年の神経科学は、歌声に選択的に反応し、他の音楽や言語にはほとんど反応しないニューロン集団の存在を示唆しています。これは、脳に「歌のための処理チャンネル」が備わっている可能性を示すもので、個人差(=遺伝や発達歴)を反映しやすい受け皿が脳側にある、と読み替えられます。:contentReference[oaicite:5]{index=5}

7) 三層モデルの実務的読み替え——脳は変わる、設計で活かす

  • 遺伝は出発点:ピッチの鋭さなど感覚的要素は生得差が大きい。だからこそ「得意帯域で当てる」設計が合理的。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
  • 脳は学習で変わる:リズムや調性の側面は学習依存が大きい。一定拍→短い課題→反復という順序で、脳のネットワーク(運動系・小脳・前頭皮質)を動員する。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
  • 環境はテコ:幼少期の家庭での歌唱経験は成人後の歌唱力を押し上げる。敏感期に「歌の場」を作る、成人以降は短時間×高頻度で維持・強化する。

8) 本章の要点(ショートメモ)

  • 歌唱力の個人差は遺伝≈40%共有環境≈37%。二者択一ではなく掛け算。:contentReference[oaicite:9]{index=9}
  • ピッチは先天寄与↑、リズムは学習・文化寄与↑。脳の担い手も部分的に異なる。:contentReference[oaicite:10]{index=10}
  • GATA2・PCDH7・SNCAなどが内耳〜聴覚野〜報酬系に関与する候補。ビート同期は69座の多遺伝子形質。:contentReference[oaicite:11]{index=11}
  • 絶対音感・先天性音痴の脳所見は「音高処理ネットワーク」の個人差と遺伝の結び付きを裏づける。

第2章|ピッチとリズムを担う脳回路——遺伝子から聴覚野・運動系まで

1) 三つの回路で考える:〈聴覚の解析〉〈運動の制御〉〈報酬のドライブ〉

歌う行為は、音の高さを見分ける〈聴覚の解析〉、テンポに合わせて声帯・呼吸・口形を同期させる〈運動の制御〉、そして「歌うのが気持ちいい」「もっと歌いたい」を生む〈報酬のドライブ〉の三つの回路が連携して成立します。近年の分子・行動遺伝学の知見を重ねると、これらの回路にまたがって多数の遺伝子が少しずつ効く(ポリジーン)構図が見えてきます。とくにリズム同期(ビートに合わせて動ける能力)は60万人規模のGWASで69箇所の関連座位が同定され、SNPベース遺伝率は13〜16%と推定されました(関連遺伝子は胎児〜成人の脳で発現・中枢神経の制御領域に富む)。:contentReference[oaicite:0]{index=0}

2) ピッチ処理の“感度”を決めるもの:内耳→下丘→聴覚皮質

家系・連鎖解析では、音高テスト(SPなど)と関連する座位が3q21.3(転写因子GATA2)や4p14PCDH7)近傍で同定されています。GATA2は蝸牛の有毛細胞や中脳下丘の発生を制御し、下丘は周波数マッピング(トノトピー)の要所です。PCDH7は蝸牛・扁桃体での発現が示唆され、音の識別や情動反応と結びつく可能性があります。すなわち、内耳から中脳・辺縁系を含む聴覚ネットワークの“作り”の差が、音程の鋭さや“当たりやすさ”の個人差として現れ得ます。:contentReference[oaicite:1]{index=1}

3) リズムは“器”、ピッチは“中身”——項目別に違う「遺伝×脳」の効き方

双子データの再分析は、課題ごとに遺伝寄与が異なることを明快に示します。純音のピッチ差検出は高い遺伝寄与(約58%)調性違反の検出は共有環境の影響が大リズムずれの検出はほぼ環境要因——つまり、ピッチの鋭さ=感覚系の先天寄与が大きい一方で、調性・リズム=学習・文化の関与が大きいという対照が観察されます。練習設計では〈拍=器〉を先に固定し、その上に〈ピッチ=中身〉を“載せる”順序が合理的です。:contentReference[oaicite:2]{index=2}

4) 報酬系が回ると「続く」——SNCAをはじめとする神経可塑性の候補群

音楽に反応して発現が上がるSNCA(4q22–24)など、学習・記憶・シナプス可塑に関わる即時初期遺伝子群(EGR1, BDNF など)が音楽適性の候補として繰り返し絞り込まれています。これらは報酬系とリンクし、音楽の快・動機づけを介して「練習が続く」「接触時間が増える」を支えます。練習の量・継続が回路の可塑性を押し上げ、最終的に歌唱精度や表現の土台を広げる、という因果の“通り道”が見えてきます。:contentReference[oaicite:3]{index=3} :contentReference[oaicite:4]{index=4}

5) 「歌のうまさ」の脳内経路

GATA2/PCDH7 のような聴覚系の発達遺伝子は〈入力〜中継〉段での個人差に関わり、SNCA などは〈報酬〉ループを通じて「練習が続く」を支えます。リズム同期は多遺伝子性で脳発達に富む座位の関与が示され、〈運動〉ルートの“器づくり”の易さに影響します。:contentReference[oaicite:5]{index=5} :contentReference[oaicite:6]{index=6} :contentReference[oaicite:7]{index=7}

6) 行動データと回路をつなぐ:なぜ「当てる→続ける→安定する」なのか

  • 当てる:ピッチ差検出の先天寄与が大きいことから、まずは得意帯域で「単音一致→2音インターバル」を成功体験化する(内耳〜下丘〜聴覚皮質の“当てやすい”状態を使う)。:contentReference[oaicite:8]{index=8}
  • 続ける:快の感じやすさ・動機づけに関わる遺伝子群(SNCAほか)と報酬系が回ると、接触頻度が自然に上がる。週単位の反復は可塑性のトリガーになる。:contentReference[oaicite:9]{index=9}
  • 安定する:ビート同期の多遺伝子的下地に、一定拍での反復(手拍子・メトロノーム)を重ねると、前運動野・小脳のタイミング制御が整い、全体の安定度が増す。:contentReference[oaicite:10]{index=10}

7) よくある疑問への要点回答(脳・遺伝の観点)

  • Q. 「生まれつきで決まる」の?
    A. 双子研究では歌唱力の個人差の約40.7%が遺伝、約37.1%が共有環境で説明されます。回路(聴覚・運動・報酬)の一部は生得差が効きますが、学習で変わる部分も大きい——両輪で読むのが正解です。:contentReference[oaicite:11]{index=11}
  • Q. ピッチとリズム、どちらが鍛えやすい?
    A. ピッチ感度は先天寄与が大きく“得意帯域”活用がコツ。リズムは学習依存が大きく、拍→声の順が効きます。:contentReference[oaicite:12]{index=12}
  • Q. どの遺伝子が鍵?
    A. 特定の一本釣りではなく、GATA2/PCDH7(聴覚発達)SNCA(報酬・可塑性)など複数の候補がネットワークで関与。リズムは69座の多遺伝子形質です。

 

第3章|極端例が教える「脳と遺伝」——絶対音感・先天性音楽不能症・歌声特異ニューロン

1) 絶対音感(Absolute Pitch):遺伝素因+発達時間窓+脳の表現

絶対音感(AP)は、任意の単音の高さを基準音なしに同定できる能力です。APは家族内の集積が知られており、遺伝素因の関与を示唆します。一方で、幼少期に音名で音を扱う経験(発達上の時間窓)が重要とされ、遺伝×環境の掛け算で成立する複合形質です。神経所見では、AP保持者は聴覚皮質(左側頭平面など)の活動様式や構造に非保持者と異なる特徴が報告され、音高処理へ言語様の戦略が関与する可能性が指摘されています。これらは「音高をラベル化する」脳表現の個人差が、素質と経験により強化される像と整合します。:contentReference[oaicite:0]{index=0}

APから学べる実務的ポイント

  • 早期の語彙化は有利:幼少期に「音名で音を扱う」環境があると、音高のラベル化が進みやすい。成人以降でも、固定ド/移動ドの一貫運用で脳表現の安定を促せます。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
  • “当てる範囲”の明確化:APがなくても、話し声近傍〜得意帯域での同定・再現精度を先に高めると、実用の上達効率が良い(後述の拍→ピッチ順と整合)。:contentReference[oaicite:2]{index=2}

2) 先天性音楽不能症(Congenital Amusia):音高処理ネットワークの弱連結

いわゆる「先天的音痴」に相当する先天性音楽不能症(CA)は、人口の数%で観察され、家族内集積が明確です。行動学的には、微小なピッチ差の検出・保持・更新が難しい傾向があり、神経所見では聴覚皮質と前頭域の結合、あるいは22q11.2領域との関連を示す報告もあります。これは、音高を時間軸で追跡・更新する回路(聴覚皮質—前頭皮質)における「弱連結」が、因子の一つになり得ることを示唆します。:contentReference[oaicite:3]{index=3}

CAから学べる実務的ポイント

  • 広い音域を往復:五度だけよりも一オクターブの上下移動で「当てて戻す」を反復したほうが、単回でもピッチ誤差が下がる比較実験があります(微小差の検出と更新を促す)。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
  • 見える化で即時改善:20分程度でも、リアルタイムの視覚フィードバックを併用すると4音模唱の誤差が即時に減少する所見があり、立ち上がりの自信形成に有効です。:contentReference[oaicite:5]{index=5}

3) 「歌声に選択的」なニューロン集団:脳は歌を“特別扱い”する

近年の神経生理・fMRI研究は、歌声に選択的に応答し、純粋器楽や話し言葉にはほとんど反応しないニューロン集団の存在を示唆しています。これは、聴覚皮質の中に「歌のための処理チャンネル」があることを意味し、遺伝や発達歴(経験)の影響が乗りやすい“受け皿”が脳側に備わる可能性を示します。こうした選択性は、感情・歌詞・メロディが統合された「歌」という刺激の複合性とも整合します。:contentReference[oaicite:6]{index=6}

歌声選択性から学べる実務的ポイント

  • 言葉とメロディの重ね方:歌詞の語頭/語尾とメロディのが一致すると、選択性チャンネルの入力が安定しやすい(伝達感の向上)。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
  • 情動の自然さ:報酬系と連動するため、作り込みすぎない呼気と表情が評価を押し上げやすい(後章の「感情の自然さ」と接続)。:contentReference[oaicite:8]{index=8}

4) 「極端例」が示す共通因子——感覚の鋭さ/回路の連結/可塑性のドライブ

APとCA、歌声選択性を並べると、①感覚の鋭さ(内耳—下丘—聴覚皮質)②回路の連結(聴覚—前頭—運動)③報酬・可塑性のドライブという三因子が浮かび上がります。遺伝は①②③それぞれに分散して関与し、発達と学習がそれを上書き・補強します。設計上の要点は次の通りです。

  • 器→中身の順:ビート同期は69座の多遺伝子性で脳発達関連に富む。まず一定拍を作り、そこにピッチを“載せる”。:contentReference[oaicite:9]{index=9}
  • 広域で更新:一オクターブ往復で「検出→保持→更新」を一度に刺激する。五度だけの往復は効果が限定的になりやすい。:contentReference[oaicite:10]{index=10}
  • 快で続ける:SNCAなど可塑性関連群は「続けやすさ」に関与し得る。短時間×高頻度で“成功体験”を刻む。

5) まとめ:脳は「選び・結び・続ける」ことで変わる

  • APとCAは、音高処理ネットワークの選択性と連結の個人差が歌唱力に効くことを示す。:contentReference[oaicite:12]{index=12}
  • 歌声選択性は、脳が歌を特別扱いするチャンネルを持つ可能性を示す。:contentReference[oaicite:13]{index=13}
  • 設計は一定拍→広域往復→見える化→短時間×高頻度が核(可塑性の“通り道”を確保)。

 

第4章|脳の可塑性を活かす練習設計——〈拍→ピッチ〉×〈広域往復〉×〈見える化〉の10週間プロトコル

1) 設計の骨子(3本の科学的支柱)

  • 拍=器を先に整える:ビート同期は69座の関連遺伝子が関わる多遺伝子形質で、個人差は脳発達関連の遺伝子に富む。練習の順序は「拍→声」が合理的。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
  • 広域で“当てて戻す”を学習:音程不安定者の比較で、一オクターブの往復練習のみが単回でも有意改善。狭域(五度)では効果が出にくい。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
  • 見える化で立ち上がりを加速:成人の20分×1回介入で、リアルタイムの視覚フィードバック群はメロディ模唱誤差が即時低下。短時間でも“掴む”ための補助に有効。:contentReference[oaicite:2]{index=2}

2) KPIと測定フォーマット(週1〜2回)

研究で用いられる“ものさし”に合わせ、①単音の音程一致②2音インターバル(上行/下行)だけを最小KPIにします。記録は○×+一言メモ(高寄り/低寄り、入り遅れ/走り)。この最小系で週次の差分が可視化でき、次回の課題が自動で1点に絞れます。:contentReference[oaicite:3]{index=3}

3) 10週間プロトコル(週3〜5回×各5〜10分)

Week 0(準備週):ベースライン取得とルール決め

  • 一定拍(手拍子/メトロノーム)→①単音→②2音を各3試行、録音して○×+一言メモ。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
  • 練習枠を固定(曜日・時間・場所)。意思より環境で頻度を担保。:contentReference[oaicite:5]{index=5}

Week 1–3:〈器〉を作る——拍→単音→2音

  • 毎回の流れ(5〜8分):手拍子4小節→①単音1→3回→②2音(上行/下行)各1回。終わりに1行メモ。
  • 狙い:ビート同期の土台(前運動野・小脳タイミング)に“同じ順序”で刺激を入れて整える。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
  • 許容戦略:ピッチは先天寄与が比較的大きいため、得意帯域で成功体験を積む(外しがちな高域に固執しない)。:contentReference[oaicite:7]{index=7}

Week 4–6:〈中身〉を広げる——一オクターブ往復+部分的“見える化”

  • 広域グライド×3本(中音→高音→中音→低音→中音の往復)。単回でも効果が出やすい設計。:contentReference[oaicite:8]{index=8}
  • 週1回は視覚フィードバック20分(4音模唱×反復)を挿入し、着地の感覚を視覚と結び付ける。:contentReference[oaicite:9]{index=9}
  • セット前後に①単音・②2音を測り、○×比率の推移を簡記。

Week 7–8:短い“無言フレーズ”で統合——拍→2〜3音→着地

  • 一定拍→2〜3音の短列(歌詞なし)→最後に①単音で締め。
    狙い:拍(器)上での“当てる→戻す”をフレーズに橋渡し。
  • 評価は変わらず○×+一言メモ(高寄り/低寄り・入り遅れ/走り)。

Week 9–10:フェードアウト→自走化——フィードバック漸減・A/B比較

  • 視覚フィードバックは隔回に減らし、自力で“着地”を確認。
  • Week 1の録音とA/B比較。成功率が低い側(上行か下行)を翌月テーマに固定。

4) 1回5〜10分の“標準レシピ”(毎回同じでOK)

 (1) 拍づくり:手拍子/メトロノーム 4小節(器) (2) 単音一致:1→3回(○×+「高寄り/低寄り」) (3) 2音インターバル:上行/下行 各1回(○×+「入り遅れ/走り」) (4) 広域グライド:1オクターブ往復×1〜3本(週4〜6は必須) (5)(週1回)視覚フィードバック:4音模唱を20分

短時間でも視覚FBは即時効果、広域往復は単回で有意効果の再現があるため、忙しい日でも(1)〜(3)だけ、時間がある日は(4)や(5)まで、の可変運用で可塑性ルートを確保できます。:contentReference[oaicite:10]{index=10} :contentReference[oaicite:11]{index=11}

5) 失速時のリカバリーと分岐

  • 当たりが散る:テンポを半分に落として(1)→(2)→(3)のみ。拍=器を再固定。:contentReference[oaicite:12]{index=12}
  • 高域で上ずる:広域は続けつつ、得意帯域中心に単音・2音の成功率を回復(先天寄与を逆手に“乗る”)。:contentReference[oaicite:13]{index=13}
  • 飽きる・続かない:見える化20分を“ごほうび回”に設定。報酬系を回して接触頻度を維持。:contentReference[oaicite:14]{index=14}

6) 安全と衛生(中断基準)

  • 喉の乾燥・痛み・めまいがあれば即中断し、水分・休息を優先。
  • 低〜中音・軽い声量でのロングトーンを“仕切り直し”に使う。

7) なぜこれで伸びるのか(脳回路への翻訳)

  • 拍→声:拍の反復で前運動野・小脳のタイミング制御が整い、ピッチの“受け皿”が安定。:contentReference[oaicite:15]{index=15}
  • 広域往復:内耳〜聴覚皮質の“検出→保持→更新”に連続刺激を与え、着地精度を上げる。:contentReference[oaicite:16]{index=16}
  • 見える化:一時的に外部フィードバックを足すことで誤差を縮め、自己誤差検出の学習効率を高める(短時間でも有効)。

 

第5章|Q&A——脳・遺伝・練習の要点をまとめて確認

Q1. 歌のうまさはどのくらい遺伝しますか?

大規模双子研究では、歌唱力の個人差の約40.7%が遺伝、約37.1%が家庭や学校などの共有環境に関連すると推定されています。これは個人の運命の割合ではなく、集団の分散の内訳を示す統計量です。:contentReference[oaicite:0]{index=0}

Q2. 脳のどの回路が「歌」に関わりますか?

〈聴覚の解析〉(内耳→下丘→聴覚皮質)、〈運動の制御〉(前運動野・小脳などのタイミング・協調)、〈報酬のドライブ〉(ドーパミン系)の三回路が連携して働きます。候補遺伝子では、聴覚発達に関わるGATA2/PCDH7、可塑性や報酬に関わるSNCAが挙がっています。:contentReference[oaicite:1]{index=1} :contentReference[oaicite:2]{index=2}

Q3. ピッチ(音程)とリズムで「遺伝の効き方」は違いますか?

はい。双子データでは、純音のピッチ差検出は遺伝寄与が高め(約58%)で、リズムのズレ検出は主に環境要因で説明される傾向が示されています。練習設計は〈拍=器〉を先に、〈ピッチ=中身〉を後に整える順序が合理的です。:contentReference[oaicite:3]{index=3}

Q4. リズム感に遺伝子はありますか?

単一の決定因子ではなく、多数の遺伝子が少しずつ効く多遺伝子形質です。60万人規模のGWASで、ビート同期能力に関連する69座が同定され、SNPベース遺伝率は13〜16%と推定されています。:contentReference[oaicite:4]{index=4}

Q5. 絶対音感(AP)は遺伝と関係しますか?

家族集積の所見があり遺伝素因が示唆されますが、幼少期の音名学習など環境的条件も重要とされます。神経所見では聴覚皮質(左側頭平面など)の活動様式に差が報告されています。:contentReference[oaicite:5]{index=5}

Q6. 先天性音楽不能症(先天的音痴)は脳とどう関係しますか?

家族内集積があり、聴覚皮質と前頭皮質の結合の弱さ、22q11.2領域との関連などが報告されています。微小ピッチ差の検出・保持・更新が難しくなりやすいのが特徴です。:contentReference[oaicite:6]{index=6}

Q7. 「歌に特異的に反応する」脳の仕組みはありますか?

歌声に選択的に応答し、器楽や話し言葉にはほとんど反応しないニューロン集団の存在が示唆されています。歌は脳内で部分的に“特別扱い”されている可能性があります。:contentReference[oaicite:7]{index=7}

Q8. 短時間の練習でも本当に効果は出ますか?

はい。成人の自称音痴を対象に20分×1回の介入で、特にリアルタイムの視覚フィードバック群はメロディ模唱の誤差が即時に低下しました。立ち上がりの矯正に有効です。:contentReference[oaicite:8]{index=8}

Q9. 音程が不安定です。どんな練習が効率的ですか?

比較実験では、五度の狭域より一オクターブの広域往復練習のほうが単回でも有意改善が出ました。〈拍→単音→2音〉で器を作り、広域で「当てて戻す」を学習しましょう。:contentReference[oaicite:9]{index=9}

Q10. 日々の測定は何を指標にすればよいですか?

研究で用いられる“ものさし”に合わせ、①単音の音程一致②2音インターバル(上行/下行)を最小KPIに。記録は○×+一言メモ(高寄り/低寄り、入り遅れ/走り)で十分です。:contentReference[oaicite:10]{index=10}

Q11. 続けるコツは? 脳の側からのヒントはありますか?

音楽で活性化・発現する可塑性関連群(例:SNCA)は報酬系と結び付きやすく、短時間×高頻度で成功体験を積むと接触頻度が自然に上がります。可塑性の“通り道”を設計しましょう。:contentReference[oaicite:11]{index=11}

Q12. 子ども時代の影響はどのくらい残りますか? 大人からでも手遅れでは?

幼少期の家族での歌唱経験は成人後の歌唱力と関連しますが、成人以降でも〈拍→単音→2音〉の順序や広域往復・視覚フィードバックなどで改善が確認されています。敏感期の効果を踏まえつつ、可塑性を活かす設計で伸ばせます。

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