序章:まず“正しい地図”を持つ――歌配信におけるノイズ抑制の考え方
歌配信で起きるノイズの実態と、なぜ難しいか
歌配信の雑音源は、エアコン・PCファンなどの定常ノイズ、キーボードやドア音などの突発ノイズ、そして部屋の残響(反射)に大別できます。従来のDSP(スペクトル減算・ウィーナーフィルタ等)は定常ノイズに強い一方、突発音や過度の抑制では“金属的な歪み”を招きがちでした。近年はRNNoise等の小規模RNNやDeepFilterNet系のAIで性能が向上しましたが、「雑音をどれだけ下げるか」vs「声の自然さをどこまで保つか」のトレードオフは依然残ります。つまり、歌の広いダイナミクス・高域成分を損なわずに抑える“塩梅”が要る、というのが現在地です。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
OBS標準フィルターの全体像(役割の切り分け)
- ノイズ抑制(Noise Suppression):発声中を含む“常時”の背景ノイズを下げる。方式はRNNoise(RNN・高品位だが相性注意)、Speex(軽量・調整可能・控えめに効かせる)、NVIDIA Noise Removal(RTX環境で高性能)から選択。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
- ノイズゲート(Noise Gate):無音時にマイクを閉じて底ノイズや環境音を完全ミュート。歌い始め・語尾を切らないよう開閉閾値とAttack/Hold/Releaseを調整。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
この2つは補完関係で、基本戦略は「無音はゲートでゼロ/発声中は抑制で控えめに下げる」。まずゲートで静寂を作り、そのうえで抑制を“欲張らず”使うと副作用を抑えられます。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
方式ごとの注意点(歌声を消さないための地雷回避)
- RNNoise:連続ノイズには強力。ただし高音・倍音豊富な歌声を誤判定して途切れ・水中感が出る事例があるため、事前に自分の声質でA/Bチェック必須。男性低域中心で安定するケースもあるが、歌配信では慎重運用が前提。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
- Speex:古典的だが安定。OBSの既定-30 dBは効き過ぎになりやすい。推奨はおおむね -10 dB周辺の“弱め”から。突発音はあまり消えないが、声の質感を守りやすい。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
- NVIDIA:RTX環境でAI抑制が強力。キーボード等も大幅に下げられる一方、GPU負荷と稀なアーティファクトに注意。配信・ゲームと併用するならPC性能と相談。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
フィルターチェーンの思想――“判定を誤らせない順番”
一般則はノイズゲート → ノイズ抑制 →(必要なら)コンプレッサ → ゲイン/リミッター。ゲートを先に置くと小音量で開きっぱなしになりにくく、抑制は“軽め”で済む。強いコンプは弱音とノイズを同時に押し上げてゲートを無意味化するため、導入は慎重に(歌配信はコンプなしでも十分成立するケースが多い)。:contentReference[oaicite:8]{index=8}
“ソフトより先に”やるべき物理対策(常時効く・副作用ゼロ)
- マイク運用:ダイナミック(未処理部屋)/コンデンサー(静音・吸音)を使い分け、近接でS/Nを稼ぐ(ダイナミック5–15cm/コンデンサー15–30cm目安)。オフ軸+ポップガードで破裂音と息直撃を回避。:contentReference[oaicite:9]{index=9}
- ゲイン設計:最大発声でOBSメーター-6dB付近、通常は-12〜-18dB。小さすぎても大きすぎてもノイズ問題を招く。:contentReference[oaicite:10]{index=10}
- 部屋の静音化と吸音:エアコン・PCファン・通知を止め、正面に布/床にラグ/クローゼット前など簡易ブースで一次反射を減らす。これだけでフィルターの出番が激減する。:contentReference[oaicite:11]{index=11}
本稿の進め方(章立て)
- OBS標準フィルターの最適設定:RNNoise / Speex / NVIDIAの使い分けと数値の目安。
- ノイズゲートの実戦レシピ:Open/Close閾値・Attack/Hold/Releaseを歌向けに合わせる。
- 外部VST/AIの選び方:ReaFIR/Waves NS1/Clarity Vx/Brusfriの要点とOBSでの導入可否。
- マイク・ゲイン・部屋作り:“元の音”を上げてフィルターを弱くできる環境の作り方。
- 仕上げの手順書:歌の最弱〜最強でテストし、「声が切れない・痩せない」ラインに落とす。
以降、実際の数値と操作順に踏み込みます。:contentReference[oaicite:12]{index=12}
OBS標準フィルターの最適設定:RNNoise/Speex/NVIDIAの使い分け
前提:どの方式でも“効かせ過ぎは質感劣化”――A/Bで薄く合わせる
歌配信では、子音の輪郭・倍音の伸び・語尾の余韻が命です。ノイズ抑制は常に薄く、A/Bで「処理あり/なし」を切り替えながら調整します。操作はソース(マイク) → フィルタ → [+]ノイズ抑制。ゲインは最大発声でOBSメーター−6dB付近、通常−12〜−18dBに揃えてから着手します。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
Speex(古典的・安定)――“歌の質感優先”の第一候補
推奨シナリオ
- 静かな部屋〜軽い環境ノイズ。声のニュアンスを崩したくない。
- CPU負荷を増やしたくない(軽量)。
設定の目安(OBSフィルター → ノイズ抑制 → 方法:Speex)
- 抑制レベル:−8 〜 −12 dBを起点(既定の−30dBは効き過ぎになりやすい)。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
- 母音の“ふくらみ”が痩せたら1〜2dB戻す。歯擦音(s, sh)がザラつくなら1〜2dB追加。
チェック語句(短文でOK)
さしすせそ/かきくけこ/ねぇ を伸ばす
処理ON/OFFで、語尾の2拍が細らないラインに合わせます。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
RNNoise(RNN方式)――連続ノイズに強いが“声の誤判定”に注意
推奨シナリオ
- エアコン・PCファンなど定常ノイズが目立つ環境。
- 男性低域中心・やわらかい表現が多い曲調で安定しやすい。
設定の目安(方法:RNNoise)
- 固定値(スライダなし)。副作用を避けるため、先にノイズゲートを薄く入れて無音を切っておくと誤作動が減ります。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
判定手順
- スケールの高音(サビ)を15秒歌い、母音が“水中”っぽくならないかをON/OFFでA/B。
- 語尾の伸ばしで“ふわっと切れる”瞬間が出たら、RNNoiseは撤退→Speexへ。方式の相性問題です。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
NVIDIA Noise Removal(RTX必須)――突発音も強力に抑えるAI
推奨シナリオ
- キーボード・クリック・外音など突発ノイズが多いPCデスク配信。
- RTX搭載・GPUリソースに余裕がある。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
設定の目安(フィルター → NVIDIA Noise Removal)
- 強度:低〜中から。高は歌の倍音が痩せやすい。
- GPU負荷が上がる場合はサンプルレート44.1kHz、エンコーダ設定を見直して落ち着かせる。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
確認ポイント
子音の立ち上がりが“パツッ”と不自然にならないか、語尾の余韻が途中で欠けないかをA/B。問題が出るときは強度を一段下げ、ノイズゲート側で静寂を作る方へ寄せます。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
ノイズゲート(補完役)の歌向けレシピ
フィルター順:ノイズゲート → ノイズ抑制。ゲートは無音を確実に切る“ゆる設定”が原則です。:contentReference[oaicite:8]{index=8}
- Close Threshold(閉じ):−42 〜 −48 dB
- Open Threshold(開き):−38 〜 −44 dB(Closeより3〜6dB高め)
- Attack:5–15 ms(語頭を削らない)
- Hold:120–250 ms(子音間の微小休止で閉じない)
- Release:120–250 ms(語尾2拍の余韻を残す)
ゲートが強すぎると“息継ぎのたびに切れる”不自然さが出ます。Close/Releaseを長めにして、おとなしい息音は通すくらいが歌向きです。:contentReference[oaicite:9]{index=9}
実戦チェーン(例)と導入手順
- ソース(マイク)→ フィルタ → ノイズゲートを追加(上記レシピ)。
- 続けてノイズ抑制(Speex −10dB など)を追加。:contentReference[oaicite:10]{index=10}
- 必要なら最後にコンプレッサ(弱):Ratio 1.5–2:1、Attackやや遅、Release中速。歌配信は基本なくてもよい。:contentReference[oaicite:11]{index=11}
3分の検証ルーチン(毎回固定)
- 静音→ささやき→地声→サビを連続で15秒録画。
- フィルターON/OFFを交互再生し、①語頭の欠け ②語尾2拍の細り ③子音のザラつき の三点だけをチェック。:contentReference[oaicite:12]{index=12}
- 問題があれば抑制を1–2dB緩める or ゲートのRelease/Holdを延ばす→再テスト。
方式選びの指針(まとめ)
- 静かな部屋・歌のニュアンス重視 → Speex(−8〜−12dB)
- 定常ノイズが顕著 → RNNoise(相性チェック必須)
- 突発ノイズが多い・RTXあり → NVIDIA(低〜中)
どの方式でも、“ゲートで無音を切る → 抑制は薄く”を守ると、声は太いまま背景だけが静かになります。:contentReference[oaicite:13]{index=13}
ノイズゲートの実戦レシピ:Open/Close閾値・Attack/Hold/Releaseの詰め方
まずは順番:ゲイン → ゲート → 抑制の順で決める
ノイズゲートは“無音時にマイクを閉じる”役割です。先にマイクゲイン(最大発声でOBSメーター−6dB付近、通常−12〜−18dB)を合わせ、次にゲートを薄く決め、その上にノイズ抑制を控えめに載せます。順番を守ると、過度な抑制に頼らず声質を保てます。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
ノイズ床の測り方(30秒)
- 部屋を静音化(エアコン・ファン・通知OFF)。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
- マイクに向かって黙り、OBSのオーディオメーターの無音時の山を読む(例:−50〜−55dB)。
- ささやき→通常→サビの順に4秒ずつ発声し、目視でピーク帯も把握(例:囁き−36dB/通常−20dB/サビ−6dB)。
この“床と山”の2点が、後続のOpen/Close値の拠り所になります。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
推奨の初期値(歌配信向け・ゆる設定)
- Close Threshold:−42 〜 −48 dB(無音時の山より3〜8dB上)
- Open Threshold:−38 〜 −44 dB(Closeより3〜6dB高く=ヒステリシスを確保)
- Attack:5–15 ms(語頭の子音を削らない)
- Hold:120–250 ms(子音間の小休止でパカパカ閉じない)
- Release:120–250 ms(語尾2拍の余韻を残す)
“開きにくい/閉じやすい”関係(ヒステリシス)を作ると、ゲートのチャタリング(開閉のガタガタ)を避けられます。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
声質・マイク別の微調整ガイド
ブレス多め/ささやき系が多い曲
- Open/Closeを各2dBほど下げる(閉じにくく)→語尾の息が切れにくい。
- Releaseを+50〜100msして、余韻が自然に落ちる時間を確保。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
アップテンポ/子音が鋭い曲
- Attack5ms寄り、Hold120ms寄りで“立ち上がり重視”。
- 歯擦音が煽られる場合は、後段のノイズ抑制を−2dB緩めてA/B。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
ダイナミックマイク(近接5–15cm)
- 近接でS/Nが高いので、Open/Closeを1–2dB厳しめにしても自然。
コンデンサー(距離15–30cm)
- 部屋鳴りを拾いやすい。Open/Closeはゆるめ、Hold/Release長めで“切り過ぎ”防止。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
テンポ連動の目安(Hold/Release)
BPM | ♪(八分)の長さ | 目安(Hold / Release) |
---|---|---|
70–90 | 333–429ms | 180–250ms / 180–250ms |
100–120 | 250–300ms | 150–220ms / 150–220ms |
140–160 | 188–214ms | 120–180ms / 120–180ms |
語尾の余韻を“八分音符の半分〜同等”に収めると自然に感じやすくなります。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
3段階テスト(15秒×3で完了)
- 静音→囁き:Open/Closeの境界を探る。囁きで開かないならOpen+2dB。
- 子音連打:「さしすせそ/かきくけこ」。語頭が欠ける→Attack+5ms。
- 語尾伸ばし:「ねぇ〜」「あー」を2拍。途中で途切れる→Release+50ms。:contentReference[oaicite:8]{index=8}
よくある“失敗の音”とその直し方
症状 | 原因 | 修正 |
---|---|---|
語頭が欠ける/子音が丸まる | Attack速すぎ/Open高すぎ | Attackを5→10ms、Openを−2dB下げて再テスト。:contentReference[oaicite:9]{index=9} |
息継ぎでパカパカ閉じる | Close高すぎ/Hold短すぎ | Close−2dB、Hold+50〜100ms。:contentReference[oaicite:10]{index=10} |
語尾の余韻が切れる | Release短すぎ | Release+50〜100ms、必要ならOpen/Close−2dB。:contentReference[oaicite:11]{index=11} |
サー音が残る | ゲートは“無音”だけ、発声中の床は別問題 | ノイズ抑制を−2dBだけ強めるか、物理静音/近接でS/Nを底上げ。:contentReference[oaicite:12]{index=12} |
実戦チェーン(おさらい)
Mic(ゲインは最大−6dB) → ノイズゲート(薄・歌向け) → ノイズ抑制(Speex −8〜−12dB / RNNoise / NVIDIA低〜中) →(必要時だけ)弱コンプ(1.5–2:1)
ゲートが“静寂を作り”、抑制が“発声中の床を下げる”。この分業で、声の太さを保ちつつ背景だけを静かにできます。:contentReference[oaicite:13]{index=13}
外部VST/AIの選び方:ReaFIR/NS1/Clarity Vx/BrusfriをOBSで使うなら
OBSでVSTを使う前提(導入・互換・配置)
- 64bit OBSには64bitプラグインを導入する(混在不可)。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
- 対応はVST 2.xが原則。インストール後にOBSを再起動して認識させる。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
- プラグインは一般に
Windows: C:\Program Files\VstPlugins
、macOS: /Library/Audio/Plug-Ins/VST
などの既定ディレクトリに配置。:contentReference[oaicite:2]{index=2} - OBS側はソース(マイク)→フィルタ→[+]VST 2.x プラグインで挿入し、プラグインUIを開いて設定する。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
ReaFIR(無料・ノイズプロファイル方式)
長所・短所
- 長所:ノイズを「学習」して差し引くため、定常ノイズに強い。無料(ReaPlugs)。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
- 短所:過学習や強すぎ設定で“金属感”“水中感”。歌の倍音まで削らないよう慎重に。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
最小手順(Subtract運用)
- ReaFIRを挿入 → Mode = Subtract。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
- 部屋を静かにして「Automatically build noise profile」を短時間だけ有効(無音を聴かせてノイズ曲線を作成)。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
- 解除後、曲線をわずかに下へ(控えめ)調整。ON/OFFで語尾2拍が痩せないラインに収める。:contentReference[oaicite:8]{index=8}
Waves NS1(ワンスライダー・放送用途で定番)
- 長所:操作はスライダーのみ。放送・配信の実績が多く、破綻しにくい。:contentReference[oaicite:9]{index=9}
- 短所:強くし過ぎると母音のふくらみが痩せる。:contentReference[oaicite:10]{index=10}
- 起点:スライダー0.2〜0.4付近から開始、A/Bで語尾の余韻と子音の輪郭を確かめる。:contentReference[oaicite:11]{index=11}
Waves Clarity Vx(AI音声分離)
- 長所:AIで声とノイズを分離。定常・非定常の両ノイズに強い。歌でも自然さを保ちやすいケースがある。:contentReference[oaicite:12]{index=12}
- 短所:処理負荷・価格。強度を上げ過ぎると余韻が痩せることがある。:contentReference[oaicite:13]{index=13}
- 起点:軽め(Light/Low)から段階的に。語尾2拍と高音の倍音を必ずA/B。:contentReference[oaicite:14]{index=14}
Brusfri(学習型・自然さ重視)
- 長所:短い「Learn」で部屋ノイズを学習、自然な残し方をしやすい。:contentReference[oaicite:15]{index=15}
- 短所:学習時の環境次第で効きが変動。適用し過ぎると高域が痩せる。:contentReference[oaicite:16]{index=16}
- 起点:「Learn」を数秒→量は控えめ→ON/OFFで語頭・語尾・子音を確認。:contentReference[oaicite:17]{index=17}
遅延・同期の注意(VST導入時の副作用)
- 一部VSTは内部レイテンシを持つ。口と音のズレを感じたら、OBSの音声詳細プロパティ → 同期オフセットで補正、またはVSTを軽量設定へ。:contentReference[oaicite:18]{index=18}
- 重い処理は配信PCの負荷を上げる。フレーム落ちや音切れが出たらVSTを外し、まずはOBS標準(Speex/RNNoise)に戻す。:contentReference[oaicite:19]{index=19}
どれを選ぶか(判断フロー)
- まず標準で検証:ゲート(薄)→ Speex −8〜−12dB。十分なら外部VST不要。:contentReference[oaicite:20]{index=20}
- 定常ノイズが残る → ReaFIR/Brusfriでノイズ学習を試す。:contentReference[oaicite:21]{index=21}
- 突発ノイズが多い/PCに余裕 → Clarity VxやNS1を軽めに。:contentReference[oaicite:22]{index=22}
運用の鉄則(A/B・薄味・語尾重視)
- ON/OFFのA/B比較を必ず録画で確認(リアルタイムの錯覚を避ける)。
- “まず薄く”から。歌は語尾2拍の自然さを最優先にチューニングする。
マイク・ゲイン・部屋づくり:元の音を上げ、フィルターを“弱く”できる環境に
結論:マイク運用 × 正しいゲイン × 簡易吸音で、ノイズ抑制は薄くて済む
ノイズ抑制を強くかけるほど歌の倍音・語尾の余韻が痩せがちです。逆に、元のS/N(信号対雑音比)を上げられれば、OBS側の処理を薄くでき、声の質感を守れます。鍵は①マイクの種類と距離・角度、②ゲインの“安全なピーク”、③部屋の静音・吸音の3点です。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
マイク運用の最適解(歌配信の現実に合わせる)
どのマイクをどう使うか
- ダイナミック(単一指向):未処理の部屋向き。近接でも破綻しにくく、回り込みに強い。歌配信の第一候補。距離5–15cmを基準。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
- コンデンサー(単一指向):静音・吸音が整っているなら高解像度で有利。距離15–30cm、ポップ対策は必須。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
距離・角度・高さ(3点セット)
- 距離:通常は上記基準、サビ等の最大発声だけ 3–10cm“引く”(ダイナミック→15–30cm、コンデンサー→25–40cm)と歪みと押し声を同時に回避。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
- 角度:口の正面を数十度オフ軸にし、破裂音・息直撃を抑える。ポップガードはマイク手前7–10cm。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
- 高さ:口と同じかやや下。顎を上げさせないことで喉の緊張を防ぐ。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
ゲイン設計:OBSメーターで“平均−12〜−18/ピーク−6dB”
歌配信はダイナミクスが広く、デジタルのクリップは修復不可です。インターフェース/ミキサー側でおおむね平均−12〜−18dB、最大発声で−6dB付近に揃えます(OBSのメーター基準)。小さすぎると床ノイズが相対的に増え、抑制が強く必要になります。“安全なピークを確保”してからノイズゲート→抑制の順で薄く合わせるのが鉄則です。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
1分キャリブレーション手順
- 通常〜サビを想定して15秒歌う(マイク位置は基準距離)。
- OBSメーターで平均とピークを確認:平均が−12〜−18dB、最大が−6dB付近になるまでインプットを微調整。
- サビで歪む場合は距離を引く→それでも厳しければゲインを1目盛り下げる。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
部屋づくり:物理対策は“常時効く・副作用ゼロ”
静音(ノイズ源を止める)
- エアコン・換気扇・PCファン・通知音を停止。窓・扉を閉める。配信PCのファン音が大きい場合はPCの背面に布を垂らして直接音を遮る。:contentReference[oaicite:8]{index=8}
簡易吸音(一次反射を減らす)
- 歌う方向の壁に毛布や厚手カーテンを掛け、床にラグを敷く。クローゼット前(衣類面)に向かって歌うのも有効。これだけで子音の輪郭が立ち、ノイズ抑制を弱くできる。:contentReference[oaicite:9]{index=9}
回り込みゼロの返し
- スピーカーはミュートし、密閉型・有線ヘッドホンで返す。クリック漏れがマイクに入らなくなり、ゲートの開閉誤判定も減る。:contentReference[oaicite:10]{index=10}
“処理を薄くできる”検証ルーチン(3ステップ)
- 物理対策だけで15秒テスト(静音→囁き→地声→サビ)。
- ゲートのみONで同テスト:息継ぎでパカつかなければOK、語尾が切れたらRelease/Holdを+50ms。:contentReference[oaicite:11]{index=11}
- 抑制を最小値(Speex −8〜−10dB 等)でA/B:語頭欠け・語尾痩せが出ない範囲で止める。RNNoise/NVIDIAは声質相性を必ずA/B確認。:contentReference[oaicite:12]{index=12}
よくある“元の音の問題”→原因と対処
症状 | 主因 | 物理対処(優先度高) |
---|---|---|
サー音が常に乗る | 空調/PCファン、遠すぎゲイン上げ過ぎ | 静音化→近接(5–15cm)でS/N確保→抑制は薄く。:contentReference[oaicite:13]{index=13} |
破裂音・息音が痛い | 真正面・近接過多・ポップガード無し | オフ軸+ポップガード7–10cm、距離を+3〜5cm。:contentReference[oaicite:14]{index=14} |
言葉がにじむ/こもる | 部屋の一次反射・近接効果の低域膨らみ | 正面布+床ラグ、距離を+2〜3cm、マイクをやや下から。:contentReference[oaicite:15]{index=15} |
ピークでバリつく | ゲイン過多・距離一定 | 最大時だけ15–30cmへ引く→ゲインを1目盛り下げる。:contentReference[oaicite:16]{index=16} |
チェックリスト(配信前30秒で○×)
- マイク距離・角度・高さが基準値(近接/オフ軸/口と同高)。:contentReference[oaicite:17]{index=17}
- OBSの平均−12〜−18/ピーク−6dB付近、クリップなし。:contentReference[oaicite:18]{index=18}
- 静音化(空調・通知OFF)、正面に布・床にラグ。:contentReference[oaicite:19]{index=19}
- スピーカーはミュート、密閉有線ヘッドホンで返し。:contentReference[oaicite:20]{index=20}
- ゲート→抑制の順で薄味、A/Bで語尾2拍の自然さを確認。:contentReference[oaicite:21]{index=21}
仕上げの手順書:テストフレーズでライン決定→本番プロファイル保存
全体の流れ(3ブロック・10〜12分)
- テスト録画:静音→囁き→地声→サビの15秒パックを録る(フィルターON/OFFの2本)。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
- 判定&微調整:語頭欠け/語尾2拍の細り/子音のザラつきだけを見る→ノイズ抑制は±1〜2dB刻み、ゲートはHold/Releaseを±50ms刻みで調整。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
- 本番プロファイル化:フィルターを決めたら、ProfileとScene Collectionを分けて保存・書き出し。次回は呼び出すだけ。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
テストフレーズ・テンプレ(コピペ用・計15秒)
0–3s :(無音)※部屋の床ノイズ測定 3–6s :「はひふへほ」をささやき 6–9s :「さしすせそ/かきくけこ」を通常声 9–15s :「ねぇ——」「あー——」(語尾2拍の余韻)
この順序だと、無音→微小→通常→最大の“床と山”が一望できます。ON/OFFを交互再生して、最弱〜最強のどこでも破綻しないラインに合わせます。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
微調整ルール(迷ったらここに戻る)
- 語頭が欠ける:ゲートAttack +5ms/Open −2dB。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
- 息継ぎでパカつく:ゲートHold +50〜100ms/Close −2dB。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
- 語尾の余韻が痩せる:ノイズ抑制を−2dB緩める or ゲートRelease +50ms。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
- 床ノイズがまだ気になる:まず物理静音とマイク近接でS/N底上げ→ダメ押しで抑制を+1dBのみ。強くし過ぎない。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
“本番用”と“検証用”を分離する(安全運用)
- ソース複製:マイク(検証)=ゲート薄+抑制薄、マイク(本番)=決定値。シーン上で片方だけ表示。フィルターのコピー/貼り付けで時短。:contentReference[oaicite:8]{index=8}
- 録画トラック分離:[設定→出力→録画→音声トラック]で、トラック1=配信ミックス、トラック2=マイク単独を選び、トラック2だけでフィルターA/Bの録画チェックが可能。:contentReference[oaicite:9]{index=9}
- 音量基準:最大発声でOBSメーター−6dB付近、通常−12〜−18dBを再確認(本番前に必ず)。:contentReference[oaicite:10]{index=10}
プロファイル/シーンの保存・書き出し
- Profile(設定一式):メニュー[プロファイル→新規]で作成→[プロファイル→エクスポート]でバックアップ。PC移行や復旧が即座に可能。:contentReference[oaicite:11]{index=11}
- Scene Collection(画面・ソース構成):[コレクション→新規]→[コレクション→エクスポート]。検証用/本番用を分けておくと事故が減る。:contentReference[oaicite:12]{index=12}
“本番直前1分”の最終点検
- 静音でゲートが閉じるか(メーター停止)。:contentReference[oaicite:13]{index=13}
- 囁きで開き、語頭が欠けないか。:contentReference[oaicite:14]{index=14}
- サビ相当で−6dB付近、クリップなし。:contentReference[oaicite:15]{index=15}
- 抑制ON/OFFで語尾2拍が細らないか(細るなら−2dB緩める)。:contentReference[oaicite:16]{index=16}
- スピーカーはミュート、返しは密閉有線ヘッドホン。:contentReference[oaicite:17]{index=17}
リカバリ用“薄味プリセット”を必ず残す
突発的な回線不調/PC負荷上昇時に、Speex −8〜−10dB+ゲートゆる設定へ一発で戻せるよう、複製ソースか別シーンで待機させます。問題が起きた配信中でも、Studioモードで安全に切り替え可能です。:contentReference[oaicite:18]{index=18}
短い“運用ログ”で再現性を高める
日付 / 曲 / BPM: ゲート(Open/Close/Atk/Hold/Rel): 抑制(方式・量):Speex -10dB / RNNoise / NVIDIA Low 判定メモ:語頭OK / 語尾△(-2dBで改善)/ 子音○
3行で十分。次回の立ち上げが数分で終わり、毎配信の品質が安定します。:contentReference[oaicite:19]{index=19}
よくある質問(Q&A)/チェックリスト総まとめ
Q&A:現場で頻出する悩みと答え
Q1. ノイズ抑制を強めると歌が“水中”っぽくなります
A. 方式と量を見直します。まずSpeex −8〜−12dBの“薄味”からA/Bするのが安全策。RNNoiseで起きやすい場合はゲート先行→抑制弱めへ設計を戻し、語尾2拍の自然さを最優先で合わせます。NVIDIA使用時も低〜中強度起点+A/Bが基本です。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
Q2. 息継ぎのたびに“パカパカ”切れます
A. ゲートが強すぎです。Close −2dB/Hold +50〜100ms/Release +50msを目安に緩めます。ブレス多め曲はOpen/Closeを各−2dB、余韻命のバラードはRelease長めで。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
Q3. サビで歪む・押し声に聞こえる
A. ゲインと距離の問題です。まずインプットを平均−12〜−18dB/ピーク−6dB付近に再調整し、サビだけマイクを15〜30cmへ“引く”運用を加えます。処理で直すより元の音を整える方が副作用ゼロです。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
Q4. キーボードやクリック音が配信に乗ります
A. 物理対策(密閉ヘッドホン/スピーカーミュート/オフ軸)→ゲート薄→抑制の順で。突発ノイズが多くRTX環境ならNVIDIA Noise Removal(低〜中)を試し、子音の立ち上がり・語尾の欠けをA/Bで確認。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
Q5. どの順番でフィルターを挿せばいい?
A. 原則はノイズゲート → ノイズ抑制 →(必要時のみ)弱コンプ。先に静寂を作ると抑制を弱くでき、歌の倍音を守れます。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
Q6. VSTは入れた方が良い?
A. 標準(ゲート薄+Speex薄)で足りるなら無理に入れないのが安定。定常ノイズが顕著ならReaFIR/Brusfri、突発ノイズが多いならNS1/Clarity Vxを“軽め”に。導入時は内部レイテンシとPC負荷に注意し、録画で必ずA/B比較を取ってください。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
ワンページ設定早見表(歌配信・安全版)
項目 | 推奨値・運用 | 目的 |
---|---|---|
ゲイン | 平均−12〜−18dB/ピーク−6dB付近 | クリップ回避・S/N確保 |
フィルター順 | ノイズゲート → ノイズ抑制(Speex/RNNoise/NVIDIA) →(必要時)弱コンプ | 誤判定防止・副作用最小 |
ノイズゲート | Close −42〜−48dB/Open −38〜−44dB/Atk 5–15ms/Hold 120–250ms/Rel 120–250ms | 無音時ミュート(歌向け“ゆる設定”) |
ノイズ抑制 | Speex −8〜−12dB|RNNoise:相性A/B|NVIDIA:低〜中 | 発声中の床だけ下げる(薄味運用) |
マイク運用 | ダイナミック 5–15cm|コンデンサー 15–30cm/オフ軸+ポップガード | 近接でS/N↑・破裂音↓ |
部屋 | 静音化(空調・通知OFF)/正面に布・床にラグ/クローゼット前 | 一次反射と床ノイズを源流対策 |
返し | 密閉有線ヘッドホン/スピーカーはミュート | 回り込みゼロ・ゲート誤開閉防止 |
上表は“まず確実に破綻しない”基準です。最終は各自の声質・曲でA/Bして微修正してください。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
配信前“60秒プリフライト”
- 静音でゲートが閉じる(メーター停止)。囁きで自然に開く。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
- 通常→サビで−6dB付近、クリップなし。:contentReference[oaicite:8]{index=8}
- 抑制ON/OFFで語尾2拍が細らない。細ったら−2dB緩める。:contentReference[oaicite:9]{index=9}
- スピーカーはミュート、密閉有線ヘッドホンで返す。:contentReference[oaicite:10]{index=10}
- 問題時の“薄味プリセット”(Speex −8〜−10dB+ゲート緩)へ切替準備OK。:contentReference[oaicite:11]{index=11}
トラブル早見表(超圧縮版)
症状 | 即対処 |
---|---|
水中っぽい | 抑制−2dB/Speexへ切替/RNNoiseは撤退→A/B再評価 |
息継ぎで切れる | Hold+50〜100ms/Close−2dB/Release+50ms |
サー音が残る | 静音化→近接→抑制+1〜2dB(薄味維持) |
サビで歪む | 距離15〜30cmへ引く/ゲインを下げ“ピーク−6dB”へ |
クリックが入る | スピーカーミュート/密閉HP/(RTX有)NVIDIA低〜中 |
どのケースでも“物理→ゲート→抑制”の順に修正すると、最短で復旧できます。:contentReference[oaicite:12]{index=12}
運用ログ(3行テンプレ)
【曲/BPM】__/【ゲート】Open/Close/Atk/Hold/Rel=__ 【抑制】Speex −10dB / RNNoise / NVIDIA Low(A/B良化点:__) 【所見】語頭○/語尾○/子音△(次回 −2dB or Release+50ms)
毎回この3行だけ残せば、再現性が上がり、次の配信の立ち上げが数分で終わります。:contentReference[oaicite:13]{index=13}
以上で、OBSのノイズ抑制を“歌に最適化”する設計・数値・運用までを一通りまとめました。ゲートで静寂→抑制は薄く→語尾2拍を守る。この鉄則さえ外さなければ、声は太いまま背景だけを静かにできます。今日の配信から実装してください。
Voishはどんな方にオススメできる?


・高音が出ない
・音痴をどう治したら良いか分からない
・Youtubeや本でボイトレやってみるが、正解の声を出せているか分からない